またもや小川洋子的不思議空間に引き込まれてしまった。舞台は日本だと思って読んでいるものの、「薬指の標本」がフランスで映画化されると聞くと、そうか、日本でなくてもまったく違和感ないなぁと思った。無国籍。
登場人物などの固有名詞があまり出てこない。無個性かと言えばそうでもないのだけど、つかみどころのない登場人物たち。生活感がないというか、現実感がないというか。ふわふわした感じが読んでいて不安になる。心が揺れる。
収録されているのは表題作と「六角形の小部屋」の二編。
「薬指の標本」では事故で薬指の先を失った若い女性が「標本室」で事務員として働くことになる。ひとびとの思い出のものを標本にして保管するだけの場所。そこで一人標本を作る弟子丸氏。年齢不詳。もと女子アパートだった建物で、老婦人二人が今も住んでいる。こんな設定だけでも小川洋子ワールド満開。現実と切り離されたような不思議空間で繰り広げられる小さなエピソードが重なって、とうとう最後に語り手の「私」はある決意を胸に最後の扉に向かう。え、このあとどうなるのっていう終わり方。読後も不安感が続く。でもそれがいいのだ。読者の想像がふくらむ。
「六角形の小部屋」もまさに不思議空間。小部屋の中では何を語ってもいい。主人公の女性が語る内容はリアルな現実なのだけど、その小部屋は異空間。その小部屋を管理する母と息子も非現実の住人っぽい。現実と非現実の絶妙なバランス。これが小川洋子ワールドなのね。やっぱりこの話も読後は不安感いっぱい。でも小説的には完結してるのよね。こういう発想ってどこからくるのかしら。小説家ってすごいと思う。 |