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天の邪鬼なので泣かないけど◆『塩狩峠』 [2002年09月06日(金)]
塩狩峠
三浦 綾子(著)
新潮社
¥ 660
[文庫] 591hundredths-inches x 417hundredths-inches , 459P
1973-05 / ISBN:4101162018

三浦綾子さんのプロフィールを見て驚いた。若い頃、結核で13年間も闘病生活を送っていたらしい。そのときに、キリスト教信者になったそう。13年。長い。私も多発性筋炎を発病してから半年。これからどのくらいかかるのかなぁ。今、自宅でゴロゴロしている分には気楽でいいけど、将来のことを考えるとちょっと不安になったり。最近は、よくわからない先のことについて深く考えるのはやめて、とりあえず精神的な安定を目指して今できることをちょっとずつやっていこうと思っている。病状がどうなるかわからないから、先の予定がたたないのだ。こんな状態が13年も続いたらもう、大変。なにかを信じたくなる気持ちも分かる。

私は特定の宗教を信じていないけれど、宗教を信じる人の気持ちは分かるような気がする。人って、宗教じゃなくても、なにか信じられる拠り所のようなものがないと生きていけないんじゃないかな。自分の行動の基準となるような柱となるようなもの。それは例えば、親からの教えでも、恩師からの教えでもなんでもいいんだけど。例えば、なにかをするときに、ここまではいいけど、これ以上はだめ、という善悪の基準とか、人とつきあう上での距離の置き方の基準とか、この人は信用できるとか、できないとかを判断する時の基準とか、なんか人それぞれの基準がある。それが、信仰を持っている人はその教えに基づいているということだと思う。聖書では文章化されているし、人によってはすごく明解な基準かもしれない。ある意味、わかりやすいということ。

オウム真理教の事件で宗教が大きな話題になったけれど、自分で考えずに盲目的に信じるというのはある意味で、とても楽なことだ。とにかく信じて実践するということで、自分がなにか強く、偉く、立派に生きているような気がしてくるのかもしれない。それはそれで本人が幸せならいいのだけど、それで他人に迷惑をかけてはいけない。他人に迷惑をかけるか、かけないか、それがいい宗教と悪い宗教の違いじゃないかと思う。キリスト教は世界的に広がっているけれど、それは宣教師たちが世界に出て、必死に布教したから。時には現地の住民の信仰を踏みにじってまで。だから、キリスト教が盲目的にいい宗教だとは思わないのだけど、それだけ多くの人に信じられているという意味では、その教えには耳を傾ける価値があるのではないかと思う。私自身は、キリスト教関係の本を何冊か読んだ上で、その教えをすべて受け入れることはできないと思ったけれど。

「汝の隣人を愛せ」「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」というような教えがあるのに、なぜ、キリスト教徒の多い国で戦争が起こるのか。この疑問だけでも、なにかキリスト教全体を信じる気にはなれない。教えに、なにか問題があるような気がしてしまうのだ。だからと言って、仏教や他の宗教の方が優れていると思っている訳ではないのだけど。

『塩狩峠』は、キリスト教を信じ、自己を犠牲にして多くの命を救った青年の物語。なのだけど、彼がたまたまキリスト教徒であったというだけで、この一事だけで、キリスト教の教えがすばらしいとは言えないのではないか、と天の邪鬼な私はひねくれて考えてしまった。青年は最初はお坊さんになろうと思っていた。その後、周囲のキリスト教徒たちに影響を受け、その教えに感銘してキリスト教の熱心な信者になる。キリスト教を信じていることで、青年の生き方や、考え方、周囲への気配り、青年自身の心の平安が保たれる。だけど、これはたまたま、青年の考え方とキリスト教の教えが合致した結果で、これが仏教であろうと、イスラム教であろうと、新興宗教であろうと、それを盲目的に信じていれば、結果は同じなのではないかという気がする。「信じる」ということが大事なのだ。「信じることで救われる」というけれど、これは本当だと思う。ただ、信じるものはなんだっていいのだ。自分が「信じられる」と思ったものであれば。宗教ってそんなものだと思う。

とはいえ、この物語自体はとても面白くて、一気に読み切ってしまった。主人公の清廉潔白さに、こんな人いないだろう、と思いつつも、時代が明治ということで、そういうこともあるかも、なんて妙に納得しながら。人物描写が巧みで、登場人物たちが魅力的。特に、唯一悪役のように描かれている祖母が妙に物語を引き立てていて、私はなんとなく祖母に感情移入してしまった。これって邪道かも。

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